2026年5月29日に健康保険法が改正され、高額療養費制度の自己負担上限引上げが決定されました。2026年8月から「一段階」引上げられ、2027年8月からさらに一段階と言うよりも「二段階」くらい引きあがります。私はクリニックの医師として日々診療を行う中で、医療費支払いが大きな金銭的負担になるために、検査や治療を受けることを躊躇する患者さんを数多く見てきました。それをさらに助長すると考えられるため、今回の高額療養費制度の自己負担上限額引上げに反対します。
耳原鳳クリニックが加盟している全日本民医連は、先日「2025年経済的事由による手遅れ死亡事例調査」の概要報告を行いました。全国683事業所を対象に、2025年1月1日から12月31日までの期間に、①国保料やその他保険料滞納などにより無保険などになり病状が悪化して死亡に至ったと考えられる事例、②正規保険証を保持しながらも、経済的事由により受診が遅れ死亡に至ったと考えられる事例が集約されました。18都道府県から42事例が報告され、2割が40~50歳代の現役世代で、6割が月収15万円未満。正規保険証を持っている方が6割もいて、保険証があっても窓口で支払う一部負担金や薬代の負担等を心配しての治療中断や未受診が少なくないことが考えられました。受診経路では救急搬送が3割と最も多く、症状があってもぎりぎりまで受診を我慢し、救急搬送されてようやく医療につながった実態が伺えました。治療開始から死亡までの期間で最も多かったのは「1ヶ月以内(5割)」ととても短く、もっと早く受診が出来ていればと悔やまれました。
耳原鳳クリニックの経営母体である社会医療法人同仁会は、無料低額診療事業を行っています。社会福祉法に基づき、生計困難者が経済的な理由によって医療を受ける機会を制限されることのないよう、無料または低額な料金で診療を行う事業です。当法人では2009年から無料低額診療事業を行っていますが、40~50歳代の現役世代層の利用が増えてきていることと、75歳以上の高齢者が増えてきていることが特徴です。医療費の支払いには困らないのではないかと予想される被用者保険の方が2割もいます(後期高齢者医療保険の方は3割います)。そして当法人では生活保護基準の150パーセントまでの世帯収入の方を無料低額診療適用しているのですが、生活保護基準を超える世帯収入の方は7割もいます。「普通に」働き、健康保険に加入していても、低所得のために必要な時に医療の給付が受けられない現状が社会に広がっているのです。
この様な状況がある中で、高額療養費制度の自己負担上限額引上げは、さらに医療を受ける権利を奪うことにつながります。医療を受ける権利は基本的人権の一つです。健康保険法は改正されましたが、私は一人の医師としての社会的責任から、高額療養費制度の自己負担上限額引上げに反対し続けます。
