「緩和ケア医療」という言葉を聞くと、がんの終末期に受けるものというイメージを持たれる方が多いかもしれません。ですが、高齢化社会を迎えた我が国においては「心不全パンデミック」という言葉が広まり、心不全終末期における緩和ケア医療が注目され、制度としても整備されてきています。今回は、心不全の終末期医療の現状と、住み慣れた我が家で安心して過ごすための「在宅緩和ケア医療」についてご案内いたします。
心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、息切れやむくみなどの症状が徐々に進行していく慢性的な疾患です。治療薬の進歩により、上手に付き合える期間は長くなりましたが、病状が進むとお薬を調整しても息苦しさや強い倦怠感が取りきれなくなり、急に悪化して入退院を繰り返します。ですが入院前よりは悪い状態で退院されることが常ですから、いずれは死が避けられない段階、いわゆる終末期が訪れます。心臓の病気そのものを治す治療と並行して、「今ある心身の苦しさを取り除くこと」に焦点を当てるのが心不全の緩和ケアです。けっして治療を諦めることではなく、患者さんの生活の質を最優先にするための積極的な医療です。
私は心臓病の専門医ですが、心不全悪化のために病院に入院し、治療を終えて自宅に退院されてもすぐに再悪化することを繰り返す心不全患者さんを山ほど見てきました。これは病院生活と自宅生活では患者さんへの身体への負担が異なること、塩分制限をした食生活を続けるのはなかなか難しいこと、薬の内服をきちんと行うことができない患者さんもいることなどの理由によります。クリニックへの外来通院では1ヶ月に1回の病状観察が常ですから、こまやかな薬の調整や対応はなかなか難しいです。何度も入退院を繰り返しているような心不全が進行した患者さんには、最低月2回程度の診療を行い、必要に応じて何度も臨時往診出来る、在宅医療が適していると考えています。
心不全は酸素が各臓器に行きわたらない状態ですから、酸素吸入が治療の大きな要素になりますが、在宅医療においては「在宅酸素療法」が利用できます。酸素を濃縮する機械を自宅に置き、コンセントに差し込めば酸素吸入ができると言うもので、心不全の緩和ケア医療には非常に有用です。重症の心不全患者さんには、訪問看護師さんとの協力により、利尿剤の注射薬を連日点滴したり注射したりして、病院と大きく変わらぬ治療も行えます。いよいよ心不全が終末期に差し掛かった場合には、息苦しさを和らげるための「モルヒネ持続皮下注射」なども訪問薬剤師さんと協力して行えるようになりました。このように地域全体で終末期の心不全患者さんを支える動きが加速しています。
心不全は、体調の良い時期と悪い時期を繰り返しながら進みます。お元気なうち、あるいは体調が落ち着いている段階から、「これから先、どこで、どのような医療やケアを受けたいか」をご家族や医療チームと繰り返し話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング=人生会議)がとても大切です。当院では私を含めて3名の心臓病を専門とする医師が在宅医療に従事しています。心不全の治療でお悩みの方は、色々とご相談頂ければと思います。
