ドクター松葉のぴりからコラム

日本人の死に時
耳原高石診療所
所長 松葉 和己


 久坂部羊(くさかべよう)さんの「日本人の死に時」(幻冬舎新書)という本があります。副題が「そんなに長生きしたいですか」とあるように、長生きの良くない点に焦点をあて、現在の医療が、老いて身体が不自由になってから無理やり命を延ばしているだけだとして、病院に行かないという選択もありうるとしています。氏の本音が書かれていて共感できます。
 久坂部さんは、大阪府生まれの阪大医学部出身の作家で、私の一歳年下です。小説「破裂」(幻冬舎)は十万部を超えるベストセラーです。氏の文章には人間味があり、人物造形が豊かで私も大ファンです。
 「破裂」の中に登場する「香村鷹一郎」なる心臓外科の助教授は、明らかに実在の人物がモデルになっています。その人物とは久坂部さんが阪大の研修医だった時期、若くして心臓外科の助教授になっていた北村惣一郎先生のことです。北村先生は、阪大助教授を経て、奈良医大の教授になり、数多くのCABG(心臓の血管のバイパス術)を手がけたあと、国立循環器病センターの総長になっています。八十年代に大野穣一先生が耳原総合病院で循環器医療を立ち上げてから、心臓外科手術が必要な患者さんを数多く奈良医大に紹介しました。北村先生の手術は、全知全能の神業と賞賛されたほどで、北村先生が命を救った人は数え切れないほどいるでしょう。
 医療に華やかさがあった八十年代と比べると、現在の医療は、あまりにも窮屈で萎縮しているように思います。久坂部さんは、医療が進みすぎたせいだと言っていますが、そうなのでしょうか。

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