ドクター松葉のぴりからコラム

情動 やっかいなもの
耳原高石診療所
所長 松葉 和己


 これは、私たちが経験したお話ではありません。二八歳の女性が腰痛のためある病院を受診しました。問診票には、「女性の方へ 現在妊娠の可能性はありますか?」という項目があり、その女性は、「わからない」というというところに○を付けました。担当医は、その日の外来が混雑を極めていて、うっかり問診票を見落とし、腰椎のレントゲンを四枚撮ることにしました。
 その二週間後、女性が妊娠していたことが判明しました。女性とその夫に対し、病院側は、次のように説明をしました。
 今回撮影したX線による胎児被爆量は7mSv(ミリシーボルト)です。胎児に影響が出る被爆量は100 mSvですので、胎児への影響はほとんどありません。
X線被爆とは関係なく、妊娠中には二~四%程度の奇形、四%の発達遅滞、八~十%の先天性疾患の自然発生があります。
 これに対して、患者さん側は、次のように言いました。
 生まれてくる子供のリスクはゼロではないのだな。病院のミスで子供に奇形ができる可能性があるのなら、子供に何があっても病院は一生面倒をみてほしい。
 この背景には、福島の放射能汚染事故や医療不信をあおるメディアの影響があると私は思いますが、皆さん方はどのようにお考えでしょうか。
 放射線については、レントゲンなど撮らなくても、誰でも自然界から年間3 mSvほど浴びているそうです。しかし、そういう科学的根拠をいくら説明しても、医療ミスで放射能を受けたと思い込んでいるこの夫婦には、入る余地はありません。情動とはそれほどやっかいなものです。
 結局、妊娠中絶手術が行われました。

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