ドクター松葉のぴりからコラム

脳からみた認知症 その2
耳原高石診療所
所長 松葉 和己


 伊古田俊夫先生の著書「脳からみた認知症」のすごみは、第五章にあります。「私」とは何者か? 見当識障害と脳機能という表題がついています。
 人間の脳は「課題や目標のはっきりした仕事を首尾よくこなす」ためのネットワークとともに「自分を振り返り、反省し、将来を考え、自分のあり方を考える」ネットワークを持っています。
 認知症になると、後者のネットワークが働かなくなり、見当識障害が出現すると伊古田先生は述べています。
 この自分を振り返る脳内のネットワークは、ノルマを達成するための活動に取り組んでいるときには、静かにしていますが、仕事が終わり、くつろいでいるときに活発に活動します。頭頂葉の内側面に中心的部位があります。この部位は、アルツハイマー型認知症では、早期から働きが低下します。
 認知症では、自分を振り返り、反省することがなくなり、自分の置かれた状況がわからなくなる見当識障害と言われる現象が起こります。また、自分が病気であると思わない、病識欠如と言われる症状もこれで説明ができます。
 また、認知症になると、他人の心の痛みを自分の痛みとして感じる、共感や同情の働きが低下します。さらに協調性がなくなり理性的な抑制も低下しますが、これら社会生活を営むために必要な脳の働きも、自分を振り返る脳のネットワークの障害と理解されてきています。
 てきぱきと仕事をする機能とともに、自己を内省する機能も、大切な知的能力の一つで、この機能を維持することが認知症の予防につながるのかもしれません。

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