ドクター松葉のぴりからコラム

賞の柩
耳原高石診療所
所長 松葉 和己


 山中伸弥教授が、ノーベル賞を受賞したことは、日本にとって、今年一番の明るい話題でしょう。ヒトの皮膚の細胞が、あらゆる細胞に分化するiPS細胞に「初期化」できることを世界で初めて証明したという、一般人にとっても非常にわかりやすい研究成果でした。
 山中教授は、東大阪市や奈良の学園前に住んでいたことがあり、今は、毎日鴨川べりをジョギングしたり、と関西人に馴染みの土地がでてくるところも人気の理由です。
 私が、ノーベル賞と聞いて思い出す小説は、帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)
  氏の「賞の柩(しょうのひつぎ)」です。
 帚木氏は、今や文壇の重鎮になっている小説家ですが、九州大学医学部を出た精神科医という肩書きを持ち、医学物の小説を多く手がけています。
  「アフリカの蹄」(講談社文庫)「閉鎖病棟」「安楽病棟」(以上、新潮文庫)などがあります。四年前には、自身が急性骨髄性白血病に罹患して生命が危ぶまれましたが、復活し、二年前の「水神」で新田次郎文学賞を受賞しています。
 「賞の柩」は、英国のある研究者が、ノーベル医学・生理学賞を受賞したことから始まります。ところが、同じテーマを研究していた学者数人が、あいついで白血病で病死したことが判明します。死んだ学者は、どうやら皆、ノーベル賞を受賞した研究者より早く研究結果を出していたらしい。真相はいかに、という内容です。
  権威ある医学雑誌に世界で初めて論文を出すことに、心血を注ぐことが研究者の目的であることがわかります。科学には光と闇の部分があるのです。


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