ドクター松葉のぴりからコラム

地に足をつける
耳原高石診療所
所長 松葉 和己


 南木佳士(なぎけいし)氏は、ずっと長野県南佐久郡に住んでいます。昭和二十六年生まれですから、今は六十を越えています。南木氏は、佐久総合病院の勤務医です。氏の著作によれば、「ネクタイもせず、サンダル履きで町内の病院に自転車通勤し、冬になれば、これに着古したダウンジャケットをはおるだけの、簡素にして平凡な暮らし」をしているとのことです。
 南木氏は、病院勤務と平行して作家活動をしています。「ダイヤモンドダスト」で第一〇〇回芥川賞を受賞されたのは、二十二年前になります。氏の作品は純文学です。豊かな人物造形と落ち着いた作風は、広い支持を受けています。
 南木氏の著作活動を貫くモチーフは、「地に足をつける」ということです。ともすればつま先を立てたがる自分を抑え、足をしっかり大地につけて書く。同じ医師であっても、商業主義に毒され、味も素っ気もない浮ついた作品を大量生産している某作家とは、比べ物にもなりません。
 佐久総合病院は、農村医療で有名な若月俊一氏を抜きには語れません。南木氏の岩波新書「信州に上医あり」を読むと、若月氏が、どうして農民から絶大な支持を得たのかがわかります。
 その若月俊一氏に、私は一度だけ会ったことがあります。学生時代の文化祭。実行委員をしていた私は、記念講演に来ていただいた若月氏と話をしました。「目がするどい」という強烈な印象が残っています。「信州に上医あり」によると剣道家であったといいます。しかし、若月氏の眼光は、剣道だけのせいではないのでしょう。

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