ドクター松葉のぴりからコラム

赤い指
耳原高石診療所
所長 松葉 和己


 今や押しも押されもせぬ最高のミステリー作家として数々の優秀な作品を世に出している東野圭吾氏は、私が高校時代まで住んでいた大阪市生野区出身です。氏の代表作の「白夜行」では、主人公が生まれた生野区の、どろどろした独特の雰囲気が表現されています。氏は大阪府立大学工学部卒ということもあって、とても親近感があり、私が尊敬してやまない作家です。
 氏が直木賞を受賞した作品は「容疑者Xの献身」ですが、受賞後の第一作になるのが「赤い指」です。これは、ある平凡な夫婦の物語です。夫の母親が認知症になったため、この夫婦は母親と同居する道を選びます。ある日、この夫婦のとんでもない息子が、家に小さい女の子を連れ込み首を絞めて殺すという事件が起こります。夫婦は、こともあろうに、認知症の母親が女の子を殺したのだと、罪をなすりつけようとします。ふだんから暴力をふるうことが多かったと警察に嘘の証言をしたりします。嫁は、母親がいる場で「こんなにぼけているのだから、わかりはしないわよ」と言います。
 夫婦のたくらみは、重症の認知症と思っていた母親が、実は正常の判断力を持っていたことにより発覚します。この作品で、東野圭吾氏のすごい点は、認知症の人とどのように向き合うべきかという現在の医療の問題点に切り込んでいるところにあります。
 認知症であっても、一人一人の思いと物語を持っていて、喜びや苦しみ、あるいは希望を持っているという事実を、ミステリー小説と言う媒体で見事に表現しているのです。

Dr松葉のぴりからコラム